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文化遺産から学ぶ自然思想と調和した未来型復興住宅・都市計画に関する総合研究 中川研究室

東日本大震災・大津波・原発破壊により、夥しい人命と広範囲にわたる住宅、産業基盤等の物理的・経済的被災だけでなく、現代文明に対する根底的な問い直しが強いられることになった。現代の日常生活を支えてきた高度な技術環境や行政ネットワーク等がかなりの期間機能不全に陥り、それらの問題点が白日のもとにさらされた。それらの惨状は待ったなしの救援と将来の復興に根底的な課題を私たちに強いるとともに、国境を超え、多くの支援が被災地に寄せられたことも感銘深い。小さな共同体における相互扶助と自然との親和なしに生存が不可能であった私たち人類の始原から、今日の高度に人工的で、功利的、便益的な技術社会までの長い歴史までを視野に納めて、今回の課題に立ち向かわなければならない。即ち、被災地の復旧だけに留まらない日本国土の全体と国際関係を視野におさめ、徹底的に再検討し、学ぶべきものは学び、改めるべきは改め、強化すべきは強化し、明日に生き延びるために、歴史的、かつ世界先進的な叡智を結集しなければならないのである。そのための第一は身近な伝統文化を改めて注視すべきである。たとえば、今回の津波の被災地には古来からの文化財建造物がそれほど多く含まれていない。また高台の居住地と海沿いの番(船)小屋をうまく使いこなしてきた古くからの漁村集落の中には、深刻な被害を免れた例も少なくない。東北海岸部には歴史上何度も大津波が押し寄せている。長い歴史的体験の中で、自然と寄り添ってきた人々の知恵が、文化財建造物の立地の考え方や祭りなどの無形文化遺産の楽しみ方の中に安全思想としてしみ込んでいることに、私たちは眼をみはる思いである。勿論、伝統的な文化や考え方だけに依拠するには現代世界はあまりに過酷で危険すぎる。科学技術の力が不可欠である。しかし、踏々たる人類の歴史の中の尊い知恵と自然に根ざした文化を拠りどころとした、現代的な住まいや、都市や、産業や、喜びがあるはずであり、それを可能とすることが、今回の大地震の教訓であり、私たち研究者に与えられた使命である。文化遺産に象徴される安全かつ創造的に住むための自然との調和思想を、現代的な町づくりのために蓄積されてきた科学的、技術的、経済社会的システムに繋げる方法の創造が研究の眼目である。

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読売オンライン 教育×WASEDA オピニオン 
「安全に住むことへの未発の課題—文化遺産から学ぶ自然調和思想—」

http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/earthquake_110606.htm