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BIMと建築プロジェクトの運営方法の変化について 石田航星

※本テキストは2021年早稲田建築学報に掲載されたものに一部手を加えたものです。

Building Information Modeling


建築産業の未来を考える上で重要な技術に位置付けられているものとしてBuilding Information Modelingがある(頭文字を取ってBIMと呼ばれる)。

BIMはこれから作ろうと考えている建築物を、コンピュータを用いて仮想空間上で3次元的に試作し、建築物の設計内容や生産方法を仮想空間上で改善していき、実際に生産される建築物をよりよいものに改善していこうとする手法を指している。ただ、そもそもにおいてなぜ仮想空間上で設計を一度、実施する必要があるのだろうか?これは建築物の生産における2つの特徴に理由がある。


設計と施工とデザイン・ビルド


日常的に利用している商品と建築物とは、生産方法において大きく異なる点が2つ存在する。1つ目は建築物の大半が「一品生産」である点である。世の中の建築物は基本的に1つ1つが異なる形状をしている。これは1棟の建築物を作るために設計者が1から設計を行うことにより実現されることを意味する。ただ、建築物を新築する場合、発注した時点ではこの世に建築物が存在していないため、まだ存在しない建築物の形状を想像する能力が発注者に求められるが、建築物を必要としている個人や企業の多くは建築教育を受けた専門家ではないため、専門知識が豊富な「設計者」の助力が重要である。

2つ目の特徴としては、「現地生産」という点である。スマートフォンや自動車など日常的に利用している商品の多くは工場で生産され、完成品を確認した上で購入する。一方で建築物を新たに建てる場合、設計から開始し、利用する場所で現地生産する。そのため、建築工事の大部分は屋外で実施され、立地や天候の影響を考慮しながら工事を進めていく。また、前述のように建築物の多くは一品生産品のため、作る手順も考案する必要があり、工事方法を考え実行する「施工者」が必要になる。

このように1棟の建築物を完成させるには、建築物の生産方法の特徴により「設計者」と「施工者」の2者が必ず必要となる。

 この設計者と施工者を決める時期によりプロジェクト体制が変わる。伝統的には設計施工分離方式(Design–Bid–Build)と呼ばれる設計者を選定する。これは設計が完了してから施工者を選ぶ方式である。ただ、設計施工一括発注方式(Design–Build)と呼ばれる設計者を選ぶ時点で施工者も同時に選ぶ方式も存在する。なお、日本では設計施工一貫方式やデザインビルド方式など設計施工一括発注方式に類似する方式も存在する。


プロジェクト参加者の協業体制と建築に関する専門技術者に必要となる能力


 BIMにおける大きな目標は建築プロジェクトの関係者全員が意見交換を出来る環境を構築し、建築物が提供する付加価値の最大化を図ることにある。この関係者とは発注者、設計者、施工者として参加するゼネコン、更に建築設備や内外装などの専門的な工事を担う専門工事会社、機器や建材を製造するメーカー、工事を実行する現場作業員、そして施設の運用を担う施設管理者などを指す。これら関係者が共同作業を行うためには、建築物を仮想空間上で再現するしてこれから作る建築物をプロジェクト参加者全員が想像できるようにした上で、関係者を設計の初期段階から集め、全員で意見交換が行える体制づくりが重要である。

特に現代の建築物は複雑化しており、建築物のデザインに加えて、空調、電気、衛生機器、情報通信機器などの建築設備機器の重要度が増している。そのため、建築物の設計初期段階から施工者や専門工事会社と協議を行い、設計の後段階で決定していたプロセスを設計初期段階に前倒しで決定していく「フロント・ローディング」の重要性が増していくと思われる。また、設計段階から施工者などが参加できる体制を作るために、設計施工一括発注方式のように建築プロジェクトの初期段階に参加者が決定する方式がBIM導入の効果を発揮しやすいと考えられる。

 以上のように現在、世界中でBIMをキーワードとして建築プロジェクトの実施方法自体が再構築されつつある。このような時代において、設計者や施工者などの建築の専門家には、これまで以上に自分の専門領域に関する深い知識が求められると同時に、ICT技術を駆使して専門分野外の関係者に設計意図や高度な技術を分かりやすく説明し、関係者間で共創を行える能力が求められる時代が到来しつつある。さらに言えば、Web会議がクラウドを介したデータ共有が建設産業においても一般化し、現場での調整を繰り返す「一品生産」から、仮想空間上で建築物を試作し、現実で同一の建築物を再現していく「二品生産」に進歩していくと考えられる。



2021年 建築学科准教授 石田航星