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本学科の新谷眞人教授が「真壁伝承館」の設計で日本建築学会賞を受賞

茨城県桜川市にある多目的集合施設「真壁伝承館」の構造設計を行った本学科の新谷眞人教授が、建築家の法政大学の渡辺真理教授、工学院大学の木下庸子教授らと共同で2012年の日本建築学会賞を受賞しました。
以下、新谷眞人教授からの真壁伝承館についてのコメントです。

「真壁伝承館」
主要施設:集会会議・観光インフォメーション機能/まかべホール [最大300人収容]・歴史資料館・真壁図書館 [蔵書数 約16,000冊]
建築面積:1,728.84㎡ [522.97坪]
延床面積:2,742.64㎡ [829.65坪]
構造:鉄板パネル付鉄骨ラーメン造 地上2階建

真壁伝承館がある場所
 茨城県桜川市真壁(旧真壁町)は、毎年3月3日雛祭りの前一ヶ月の間、町家が雛飾りを道行く人々に愛でてもらう催しがあり、また近世から明治、大正、昭和初期の伝統建築が点在していることで有名な町である。年間多くの人々がこの地を訪れる。
 真壁伝承館は、図書館、歴史資料館、集会施設、ホールで構成される。プロポーザル時の桜川市の要望は、一つは市民ワークショップを開催し建物のスキームつくりに市民が参加すること、他は歴史的建築が多い場所に相応しい新しい施設であることであった。




建築家のアプローチ
 完成後の建物を人々はどのように受け取り向き合うのか。ワークショップを通して、市民それぞれの気持ちを見える形にしながら、施設に求められるスキーム、建物配置・形状、個々の部屋の位置や広さなどを確定していった。さらに市民同士が無意識的に共有していた土地への想い、その敷地の場所性つまりは人々への働きかけなど、そこに住んできた人々との会話を通して読み解きながらスキームを固めていった。地域にある既存建物のプロポーションとボリュウムを抽出し組み合わせる「サンプリングとアセンブリー」という新たな手法によって、新たな形態を構成し、伝統的な建物がつくる町の景観を新しい施設に継承している。
 施設の屋根の勾配、形状、他の詳細な部分は、サンプリングにより抽出されたプロポーションとボリュウムを厳密に写し取り建物全体の形態を決定し、同時に現代の技術・素材を積極的に利用することとした。この建物のデザインはこの二つの方法に導かれている。







構造システムの構成について
 決定した平面の広さや複雑さ、スケール、そして2階建ての規模に対して、21世紀の技術で耐久性や耐震性を確保し、品質や精度の高い構造を実現するために、最終的に鋼板パネルを採用することにした。鋼板を用いた構造は金刀比羅宮(香川県)や菅野美術館(宮城県)で使用した経験から、座屈や耐火の問題、確認申請、さらに鉄骨製作、施工で生じる課題が数多くあることは予想されたが、高強度、高剛性で耐震性を確保しながら、繊細なデザインやスケールにも応えられる新たな構造システムに挑戦した。

鋼板の製作と施工
 構造システムは、鋼板パネルの枠柱が鉛直荷重を負担し、パネルは水平力に抵抗させることにした。外壁面を構成する鋼板パネルは、地震水平力に抵抗する主要な構造部材であると同時に、外壁の仕上げ材あるいは下地材となり、構造システムと建築デザインは一体化している。窓開口や設備貫通孔の位置やサイズ、形状など細部にわたって決定して、工場で鋼板パネルを製作する必要がある。意匠図と軸組図との調整、構造解析へのフィードバックを行いながら、意匠と構造の整合を細かく検討した。
 2層分の高さ約6m×幅約2mのパネルユニットを工場製作し、現場に搬入・組みたてをして、パネルの溶接接合を行う方針を立てた。工場での壁パネル製作時に溶接入熱により歪が発生するため、幾度にわたって試し溶接を行い、入熱量を少なくして歪を抑え、歪を矯正する段取りを模索し、最後にほぼ歪のないパネルを製作した。かなり厳しい高い精度の要求を、工場の職工や現場の建方工が経験と技術で応えてくれた。新しい構造システムへの挑戦は実際に物を作るファブリケーターや施工者の技術が不可欠である。意匠、構造設計者の意図を形にしてくれるのはこうした分野の技術者であり、最終的には技術力を発揮して実現してくれることを確信した。

鋼板の可能性
 伝承館の外壁は鋼板パネルに直接、白い遮熱塗料を塗布して仕上げている。内部では、図書館の鋼板壁に鋼製の板が溶接され、本棚やカウンターなどになっている。鋼板パネルを使ったことで、安全性の高い構造と建築デザインが一体化した建築・構造システムとなった。
 鋼材は重量に対して強度・剛性が高いため、部材を薄く細くすることができる。このため建築家のイメージする繊細なプロポーションを表現する最適な構造材料である。さらに現場で接合することにより、連続する耐震壁であり、止水性を備えた仕上げ材あるいは下地材を兼ねている。鋼板パネルユニットを単なる躯体鉄骨としてだけではなく、他の建築部位を兼用する多機能部材として考えることができる。
鋼板は板の座屈などまだ解明されていない力学的な挙動があるが、これらが解明されて新たなシステムを考えることが可能であり、現在も鋼板を利用した床構造の開発に取り組んでいる。




受賞へのおもい
 今回の受賞は、建築作品の創造において構造設計者の果たした役割が評価されたと考えている。たいへん光栄であり、重く受け止めているとともに、率直に嬉しく思っている。主演俳優の高い演技力は素晴らしい作品を生む。そこに良い助演俳優がいればその作品の質はより高まる。常に設計者がお互いの想いに共感できることが大切だと考えている。

2012年5月
                                    新谷眞人